第9話
「名人戦第1局を見てきました」
名人戦第1局、アムステルダム対局に行ってきました!
朝日新聞のサポート(インターネット配信、棋譜点検などの雑用係ですね)と朝日ニュースターの派遣というアルバイト的な仕事でしたので、ほとんど赤字、自腹です。ぐすっっっ……。今回はおもしろ裏話を少しお伝えします。
時差ボケ解消法
趙治勲名人は例によって例のごとくゴルフです。だいたい日本の1/6の料金で回れるそうです。対局前に2ラウンド、対局後に1ラウンド。すべて違うコースに行ったらしい。全部につきあった棋士は武宮正樹九段。名人は対局前は負けて、対局後は勝ったようです。
依田紀基挑戦者はカジノ。韓国などでは恐ろしい額を賭けてよく我々を驚かせますが、今回は「10万」。いつもとは桁が違います。みんな「ああ、それだけなら……」とほっっ。ふつうの人なら10万円でもびっくりするのでしょうが。
オランダだけではないようですが、とても時間にアバウトだというのにびっくりしました。対局前日の対局室検分に、依田さんが2、3分遅れてきました。本人は「僕、遅れたのかな?ちゃんと時計を見たのになあ……」。ホテルの部屋の時計が5分ほど遅れていたようです。
「僕はそりゃよく遅刻するよ。でも、遅刻しちゃいかん、と気をつけたのに遅刻するとは……なんでそうなっちゃうのかなあ、僕って」。時間があるからって部屋で下着を洗濯していたというのですから、ちょっと気の毒になりました。
時間がルーズというエピソードをもうひとつ。
対局開始のとき、地元の取材が’殺到’しました。日本からは朝日新聞、週刊碁、NHKですが、地元は10社近くいたのではないでしょうか。真ん中を陣取るために、週刊碁の根本くん(カメラマン)は「30分前から場所取りしていました」。日本では考えられませんね。びっくりです。オランダ地元の有力紙の1面に、カラーでトップ扱いですよ。主催者の朝日新聞でさえもやらないのにね。
そんな状況でしたが、オランダ国営放送のカメラマンが対局開始に間に合わず、映像が撮れなかったというのです。「そんなにちゃんと時間通りに始まるとは思わなかった」……?!そんなんでちゃんとテレビ放送やっていっているんでしょうか。ちなみにNHKから映像をダビングしてことなきをえたそうです。
前夜祭のこと。たくさんのオランダ地元のファンが集まりました。両対局者をはじめ武宮九段らにサインを求めていました。
ある少年が依田さんにアルファベットでサインしてくれと頼んだそうです。しかし依田さんはサインをしませんでした。いつもはプライベートなときでも気軽にサインをするのですが……。依田さんは何しろ字を書くのが苦手。とくにローマ字はだめで、自分の名前も「Yoda」とは書けるのですが、「Norimoto」とは書けないのです。「ここで恥をさらすわけにはいかん」とのこと。サインをしないのではなく、できなかったのでした。
「母音をつけるんだよ」と説明をしても「母音て?」といわれてしまう。依田さんを含めて棋士数人と呑んだとき、「内藤ちゃん、筆記体書ける?すごいなあ。さすが」といわれました。ばかにしているのではありません。彼らは本当に感心しているのです。棋士の多くはそんなものかもしれません。筆記体なんかが書けるより、碁が強い方がどんなにかすごく貴重なことか。私から見れば、棋士のほうがずっとずっとすごいと思うのですけれど、本人達はよくわかってないかもしれませんね。
なゆき
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